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しろうのブログ

フィクションの話

読切は面白い(2014年)⑥:完

6つ目です。

ナンバーオブザビースト

 

 

ゲッサン「雨追さん家に行ってみた。」鳴海アミヤ

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ヤクザの下部組織の下っ端中の下っ端さんがゴミを山中に不法投棄していると、2メートルはあろう戸愚呂弟体型の男性・雨追さんにつかまり「ごみを持ち帰ってください」と忠告され、どこまでも追いかけてくる雨追さんからひたすら逃げるという話です。

 

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無表情で全く声のトーンも変えずに、音もなく近づいてきては人間離れした体技で下っ端ヤンキーを追い詰める、青鬼と仙水の中間にいるような新しいトラウマキャラクターです。下っ端さんの逃走劇は最初こそ笑えるものの段々下っ端さんが可哀そうになってくるぐらい雨追さんが恐ろしく、『ランボー』的な不思議な滑稽さがありました。

 

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月刊スピリッツとなりの芝生」作:木塚桃檎 画:山口ツトム

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思っていることを何でも口に出してしまう特異体質の主人公と、うわべだけの会話で腹を割って友達と話せないことに悩んでいるヒロインが出会い、お互いの悩みを羨みお互いを知ろうと試みる、何とも青春な話です。

 

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ストーリーの青々しさも好きなんですが、この絵の古めかしさ、日本人的な丸い鼻、一重まぶた、笑うとむしろブサイクになる感じをそのまま描いている絵柄がとても好きです。

 

 

月刊IKKI「左岸のふたり」田中相

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鍵屋で働いていて車のカギぐらい難なく開けてしまえる主人公・渡辺の下に、高校時代の同級生・永野がやってきて現金輸送車の強奪する計画を持ちかけてくる話です。永野君は八方美人で調子が良く、生徒会長もやっていた人気者で、人と会話するにも強烈にエネルギーを吸い取られてしまうタイプの渡辺君は、彼のことが苦手で大っ嫌いな存在でした。

 

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経営難の鍵屋で独り働く渡辺君と違い、永野君は新婚で子供がいる。恵まれた人間の考えた穴だらけの犯罪計画に鍵屋というだけで誘われた渡辺君は、幸せ脳みそな永野君の計画が崩れゆくさまを、彼の表情が絶望に変わるさまを拝んでやろうという邪な考えで、彼らの一味に加わります。

 

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犯行当日、現金輸送車を襲う際にも互いに実名で呼び合うような段取りの悪さを見せながら何とか金を奪って車で逃走する一味ですが、道中飛んできたコンビニ袋に視界を遮られて電柱に激突、運転手が死亡するという大失敗を犯します。

 

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現場から逃げようとする永野君を、「逃がしてたまるか」と追いかける渡辺君。追いついた先で彼は自分の本心を明かし、永野君のことが嫌いだということも告げます。さらには「どうすんのアンタ、子供産まれたばっかなんだろ?」とニヤつきながら追い打ちをかけ、永野君を絶望へ押し込もうとします。

 

しかし永野君は普段通りあっけらかんとしており、笑っている。
そして自分の不始末で家が全焼し、妻と子供が焼死したこと、隣の家にまで延焼し多額の借金を抱えていることを渡辺君に明かします。

 

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彼は渡辺君に会う前からとっくに絶望のどん底にあって、そして今回計画が失敗したことでもうどうにも引き返せないところにまで来てしまっている。それなのに彼の表情はいつもと変わらない。一方の渡辺君は自分の見たいものを見ているはずなのに心が全く晴れない。

 

永野君は、渡辺君のニヤついた追い打ちを聴いて彼が自分のことを嫌っていると悟り、深い絶望の底から、しかしあくまで爽やかに死への願望を告白し、その助けを求めてきます。

 

軽薄な口調、軽薄な表情、まるで冗談のような彼の要求が、本心からの言葉であることを渡辺君は受け止めます。幸せの絶頂を生きる能天気な人間、しかしどこか憧れていた人間に自分と同じような苦しみを味あわせてやろうという醜い欲望を抱いていた、渡辺君の心は逆に苦しみ始めます。

 

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最後に永野君の首に手をかけ絞める渡辺君、永野君への感情が「大嫌いだった」に変わっています。


自分の至らなさから生まれた責任転嫁的な嫉妬の感情が、他人への過度な侮蔑に変わるというのは私もよくやってしまいます。また他人には他人の複雑な人生が存在するということを想像できずに、無責任に他人の不幸を喜んだりする精神が、私にもあるなぁと、いろいろと嫌な気持ちになる読切でした。

 

 

アフタヌーン「新しい戦争のはなし」泉つかさ

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金の亡者、機関投資家の神崎のもとに、「ラプラスの魔女」を自称し未来の株価・景気動向を正確に予言する力を持つ謎のフレンチ・ロリータが現れ、自分に投資を任せてみないかと持ちかけてくる、という話。驚きの全96ページ。

 

神崎は怪しさ満点の魔女を最初は信用しないのだけれど、一週間分の株価動向を予測したリストを渡され、その正確さをまざまざと見せつけられたことで彼女とのビジネスに乗り出し、巨額の富を獲得します。

 

死ぬほど金をもうけた神崎ですが、ある時ふと疑問に思います。彼女はなぜ自前の資本力でなく他人に投資をさせるのか、金を儲けるためならば前者の方がいいはずなのに、投資活動に金儲け以外の目的など存在するのだろうかと。

 

そして神崎に投資の目的を問われた魔女はこう答えます。

 

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現在の日本を見渡せば欧州企業のブランドが街のいたるところ位入り込んでおり、食文化も服装も何から何まで欧州文化の侵攻を受けて、文化的植民地化しています。自国の企業の海外進出を投資で支え世界へと売り出すことは経済的・文化的植民の意義を持っており、彼女の真の目的は欧州企業の進出をサポートし世界の文化を塗り替え侵略することだというのです。

 

この魔女の陰謀に対して、神崎は日本人として怒りを感じるでもなく、ただ投資家として興味を示し、自分も魔女と同じように自国文化による経済的侵略事業を始めようと試みます。

 

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ここで魔女と神崎には、その目的において決定的な違いが生まれます。
魔女は「自国の保存と繁殖のため」、神崎は「愛国心をダシに国民を煽動し金を儲けるため」に経済文化侵略を行います。そして神崎は魔女の祖国であるフランスにも日本のコンテンツ産業を売り込み始め、それが魔女の癇に障り、欧州vs日本、魔女vs神崎の侵略戦争に発展して行きます。

 

金ではないもののために金を利用する魔女と、金以外のモノに価値を見出すことができない投資家・神崎の思想のぶつかり合い、物語は投資の専門用語も飛び交う数字バトルなのですが、彼らのお金に対する姿勢など人間的な要素も多く含まれていて、ヒューマンドラマ感覚で読めてしまいました。

 

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ビッグコミックスペリオール「東京昆虫ムスメ」石川秀幸

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人類の最恐にして永遠のライバルのあれを50万匹ほど世話させられる薬品会社勤務の美女、そんな読切です。

 

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濃厚な生態情報、インパクトの強すぎる絵、時とともに次第に麻痺していく美女と、近づく距離感。

 

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研究室の扉を密閉し忘れ50万匹が溢れ出た状況を見た、美女のこの表情と、対処法。

 

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2話完結という、ぜいたく仕様です。

 

 

 

ブログの画像アップロード容量が満杯になったのでこの辺でやめます。
来年も面白い読切がたくさん読めればいい、そしてここに挙げた作家さんの新作読切・連載が始まったりしたらいいなぁと思います。