しろうのブログ

フィクションの話

方言と文字による音声積分のはなし

 

耳掃除をさぼってたせいか、音楽を変な音量で聞いているせいか、最近人の言ってることを一回で聞き取れないってことがよくあります。春から馴染みのない北国に転居したこともあって、年配の方のドギツイ方言が全く理解できずコミュニケーションに支障をきたしていて、少し困っています。


それにしても、フィクション世界の人間って本当に滑舌が良くてわかりやすいですよね。聞き取れずに再度確認、なんてことがめったに起きない。耳掃除などしなくてもフィクション世界は楽しめます。

 

 

フィクションの滑舌と方言


小説や漫画なんかは自分のペースで文章を読めるけれど、映画やドラマ、アニメでは一度セリフを聞き逃してしまっても話は進んでしまうし、理解の及ばないままなんとなくそのまま見続けてしまうことになります。なので時間が勝手に進んでいく映画ドラマアニメの登場人物の滑舌が良いというのは、非常にありがたいことです。

 

しかし、方言で喋るフィクションキャラクターについては、その滑舌の良さはプラスに働いていないように思います。

 

方言って、標準語の角張った部分をなだらかに削り落として、少ない口の動きで発せるように簡略化した言語だと思っています。できる限りTとかKのめんどくさい音を減らして少ない労力で言いたいことを言うツール、その省略化のルールが地域ごとに共有されている、それが方言だと思うんす。滑舌が悪くても省略・変化の法則を知っていればだいたい何言ってるか想像がつくし、外部から来た人間には当然何言ってるか全くわからないということも起こりうる。

 

方言の性質と、はきはき喋るための滑舌の良さとは、まったく真逆なのです。

 

なのでフィクション世界の滑舌の良さで、方言の滑らかさを表現しようとすると妙な具合になります。その最大の例は、「名探偵コナン」の服部平次でしょう。彼の使っている言語はイントネーションと文法的には大阪弁のそれなんですが、発生の簡略化の要素が排除されているように思えます。

 

以下の動画の中で、「遺体に触らんでも、見たらそれぐらいわかるわ」というセリフがありますが


名探偵コナン 服部の青酸カリ講座 - YouTube

 

声優さんはこのセリフの文字を欠かすことなく、視聴者に聞き取りやすく届けるために
「いたいに さわらんでも みたら それぐらい わかるわ」
と、ひらがなの一つ一つをはっきりと発声してくれています。

 

一方、私が大阪弁でこれを言おうとすると、すごく極端にすると
「いたいぃ さぁらんでも みたぁ それぐらぃ わかるわぁ」

 

ぐらいの発音になります。文字ごとに強弱があり、文字と文字の間には前節の名残のような音が挟まり、文章は最初から終わりまで一つの流れを持って進みます。

 

私はあまり滑舌が良くないのですが、それでも一般的な方言と、文字で整頓されたフィクションの方言には、音としての違いがあるように感じます。

 

どことなく言葉の角が立っているというか、面取りされていないというか、ひらがなで文章を思い浮かべやすい、どんな地域の人にでも聴き取れるよう整頓された音です。 平次の彼女さんとか「おジャ魔女どれみ」のあいこちゃんなんかも同じような言語を使っているように思います。

 

それが悪いとか嘘っぽいとか言っているわけではありません。
三者ともに関西出身の声優さんが演じていますし、アニメの時間軸には可逆性がないので、一度で伝わるよう万人向けの発声をする必要があるのだと思います。

 

映画やアニメの方言が滑舌良くなるのは仕方のないこと、制作者側の配慮だと認識していて、文句を言うつもりはありません。

 

 

文字で見る方言に感じる違和感

漫画を読んでいても、大阪弁を含む様々な方言を目にします。文字媒体で表現された方言にも、音声のそれと似たような違和感を抱いています。本来なだらかで連続的につながっている方言の流れのようなものが、文字媒体にすると一文字一文字ずつぶつ切りにされているような感覚になるのです。

 

文字媒体で表記された言葉に滑舌も糞もないと言われてしまうかもしれませんが、登場人物がその世界で発している音声を変換し可視化したものが文字セリフであって、そこには当然キャラクターの滑舌の良し悪しも反映されているはずなんですよ。

 

一般的に聞き取りづらい方言を文字起こしするならば、登場人物の発声に合わせてそれに合った文字列をひらがなで積み上げる必要がある。音声の強弱や長さ、音節の間にあるつなぎの部分まで、連続した音の塊を、角張ったひらがなをたくさん並べることで近似値を出す。

 

音声を文字で積分する感じの、そんな方言文字が読みたいのです。

 

原田久仁信『KIMURA』("木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか"のコミカライズ作品)

KIMURA vol.1 ~木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~

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方言はキャラ付けや時代設定の要素以外にも、人間の言葉づかいという大事な個性を表現するツールとなりうると思うし、砕けた方言であればあるほど地域の閉鎖性なんかも感じられて、私はそういうのがすごい好きなんです。

 

福島聡『少年少女』

少年少女 (1巻) (Beam comix)

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『ゴールデンカムイ』単行本がそろそろ出るはず

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)

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方言って本当に聴き取りにくいし、イメージとしての方言ではなく生きた人間の、音の間や強弱の差なども文字媒体でも表現してほしいなと思うんです。欲を言えば方言の中でも滑舌の悪い方言と、良い方言があったりするととても幸せです。実録やくざ映画の「北陸代理戦争」とかも本当に何言ってるのかわからない箇所がいっぱいあって、本当に良いです。

 

文字先行ではなく、登場人物の発声を聴いて音の粒を全てひらがなに変換したような、文字とセリフの長さも一致する、文字で声の積分をとるような感じの、そういう方言文字が読みたいです。