しろうのブログ

フィクションの話

ホモ漫画の話

最近なんとなく買った漫画が立て続けにホモ漫画で自分の感性大丈夫だろうかと心配になったので、ちゃんと面白く読むこともできるぞいっていう、頭の整理をしておこうと思ってこんな記事を書きます。あくまで漫画の話で、現実世界での同性愛についてどうこういうものではありません。


最近同性愛というジャンルが結構ポップなコンテンツ界隈にも流れ込んできていて、書店でもドカンと面陳されているのを見かける機会も増えてきました。特に「男の娘」や「百合」といったものに灰汁抜きされた、同性愛ものとは一味違った「可愛いものを愛でる」コンテンツとして、広くとっつきやすいジャンルとして広まっているように感じます。しかし普通に可愛らしいものを愛でるだけであれば、普通の恋愛ものを読めばいいし、なぜわざわざこんな買いにくい煽り文句がついた漫画を書店のレジに持っていく恥を乗り越えてまで、同性愛漫画を買おうとするのか。普通の恋愛漫画と可愛いものを愛でる漫画と、同性愛漫画とで、得られる感動の違いはなんなのか。

 

それは、彼らの関係に絶対的なゴールがないってことが、関係しているように思うんです。最近読んだホモ漫画の感想をまとめつつ、そんなことを考えていきます。

 

 

ヤマシタトモコ『さんかく窓の外側は夜』

さんかく窓の外側は夜 1 (クロフネコミックス)

 

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霊が見えてしまう眼鏡書店員・三角(みかど)くんが、除霊探偵・冷川(ひやかわ)さんにその才能を見初められてゴーストバスターのアシスタントを始めるって話です。

 

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冷川さんは強力な霊的エネルギーを持っているのだけれど悪霊を捉える感知能力に欠けていて、霊感の鋭い三角くんの魂と自分の霊手を強制的につなげることで、霊を掴んで撃退します。

 

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この時、冷川さんは三角くんの魂の核心に直接触れるのですが、それが肉体的にではなく精神的にすさまじく気持ちいいらしく、三角くんは除霊のたびに金魚みたいになります。リブレ出版刊行なだけあって表現がド直球です。

 

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三角くんは、無断で魂の深いところまで入り込んできて、霊に対する恐怖の感情や、そもそも人間的に距離が近すぎる冷川さんを徐々に拒むようになり、第三の霊能力者・迎くんと呪術師・非浦英莉可と接触したあたりから二人の関係は大きく変化します。

 

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三角くんは霊能力の強い人間に魅かれてしまう体質で、占い師の迎くんと一緒に除霊した時にもその精神同期をすんなり受け入れてすぐに影響されてしまいます。呪いを請け負い強力な呪術で間接的に他人を死に至らしめる非浦英莉可と対峙した時にも、あっさりと彼女に精神侵入を許し感応してしまう。

 

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それを見た冷川さんは三角くんを他人に渡さないために、三角くんの心に呪縛をかけます。

 

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その呪縛は、彼が冷川さんだけに好意を向けるように、三角くんの精神回路に障害を生むようになります。

冷川さん以外の霊能力者に感応しようとしたり、彼らへの好意を抱くだけでもそれは作動し、三角くんが冷川さんだけを見るように仕向けられたものです。それは三角くん自身には意識できないもので、自分が異常に冷川さんと近づいてしまっていること、かつて感じていた恐怖が無くなっていることにも気づくことなく、彼は冷川さんのペットのようになっていきます。

 

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例えば、三角くんは非浦と出会った時にそのすさまじい霊力に感応して惹きつけられ、精神を乗っ取られて彼女をかばう発言をさせられたのですが、それを面白く思わない冷川さんによって記憶を消されています。非浦に好意を抱いてしまったことすら冷川さんは許さず、さらに接触を試みる非浦さんを前に明らかな敵意を示します。

 

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現状三角くんは冷川さんによって精神的に束縛され誰の感応も受け無いよう細工されていますが、冷川の人間性を疑問視する迎くんも、三角くんの感度の良さに魅かれる非浦さんも、三角くんの心へに侵入を繰り返し、いつその呪縛から解き放たれてしまうかわからない状態です。

 

どれだけ冷川さんが三角くんを縛り付けても、その関係は他の人間によってあっさりと壊される危険をはらんでいます。

 

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冷川さんの冷酷で依存性たっぷりなメンヘラ束縛がいつ崩れてしまうのか、いつ三角くんは正常に戻り、また別の誰かの感応を受けてしまうのか。冷戦状態にある冷川・迎・非浦が三角くんを奪い合い、冷川・三角のホモコンビがいつぶっ壊されてしまうのか、とてもソワソワ楽しく読んでいます。

 

 

同性愛漫画の最後


同性愛ものの漫画って、物語の終着点が存在しないように思うんです。普通の恋愛ものだったら、男女がつかず離れず微妙な距離を保ちつつ、様々なトラブルを乗り越えライバルが退場していく中、付き合うあるいは結婚という、割と明確なゴールが想定されているし、実際そういった結末を迎えるものがほとんどです。

 

しかし、同性愛ものって始まりから最後まで背徳感に包まれていて、どれだけ両者の関係が深まっていっても、明確に「ここまで行けば二人の今後は安泰!」っていう指標がないんですよね。お互いを認め合えればいいのか、もっと進んで肉体関係を持てばいいのか、親や周囲の人間を認めさせればいいのか、渋谷区に行って公的な証明書をもらい社会的に認められる関係になればいいのか。どこまで行っても彼らの関係には不安要素が残り、どこまでも破局と隣り合わせの環境が続いていくように思えます。漫画の中には精神的にその重圧を振り切った、同性愛カップルの完成形みたいな人たちがサブキャラで登場することはありますが、漫画の主人公がそういう存在になるまでを描いた漫画って、あんまりないような気がするんですね。

 

 

柴谷けん『ベビーリーフデイズ』

ベビーリーフデイズ (リュウコミックス)

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この漫画は植物の体質を持つ少年ナツメと、それを育てる少年ツバキの飼育日記のような感じなんですが、ある時ナツメが学校の花壇に咲いている花に一目ぼれしてしまい、その花壇の管理をしている人間ビアンカに交際を強要されて、本当に付き合ってしまうという事件が起こります。

 

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ナツメは植物なので美しい花に魅かれるものの人間の女性には興味を示しません。
ビアンカは酷く身勝手な理由でナツメと交際しており、一方で警戒心の薄いナツメは自分の植物体質をビアンカに明かしてしまい、幼いころからナツメを育ててきたツバキくんの心に暗い感情が湧き上がります。

 

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ツバキくんは明らかな敵意を持ってビアンカの心の弱みをえぐり、ナツメを取り戻すことには成功するのですが、彼はこれを機に自分のナツメに対する尋常ならざる感情の存在に気づき、植物と男の依存という二人の関係のいびつさに悩むようになります。

 

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この漫画はナツメが何とともに生きていくのか、ツバキがナツメとどう生きていくのかの正解を出せないままに終わります。同性愛どころか草と人間という異種間依存関係に、彼らがどう折り合いをつけていくのか、どうなれば彼らの関係は完成しゴールを迎えるのか、想像すらつきません。

 

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金子歩『君の中の少年思考』

君の中の少年思考 1 (ジェッツコミックス)


同じクラスの美少女的美少年に性的な魅力を感じるようになった男子高校生の話です
この漫画は第一話からいきなり主人公二人が肉体関係を持ち、その後人目を忍びながらイチャコラするドホモな漫画なのですが、彼らの精神は非常にもろくちょっとの逆風で一気に折れてしまいます。主に美少年側の心が非常にもろく、クラスメイトから冗談でキスを強要されたときに拒否する言い訳ができなくて悩んだり、自分が男性として受け入れらているのかどうか不安になったりと、乗り越える問題が次々に降りかかってくる。

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この漫画も美少年の環くんが、男の人が好きだという性的嗜好を周囲の人間のカミングアウトして当面の問題をクリアするところで物語が終わっています。

 


この二つの漫画は、登場人物の物語にけりをつけないまま終わってしまっています。
でもこういう同性愛系の物語って、関係性を完結させることが最終目的ってわけでもないと思うんです。

 

どんだけグズグズの依存関係を築き上げたとしても、彼らの関係が深まれば深まるほど抱える問題が大きくなっていくようで、全てが泥沼化していくように思えます。どこまで仲良くなっても、関係が深まっても、決してゴールにはたどり着かない、永遠に未熟で未完な不安定性を持って話が進んでいく。むしろ、それが面白いのかなぁなんて思います。

 

普通の恋愛漫画であれば、二人の関係が深まる上限っていうのがあると思うんですよ。肉体関係を持つなり結婚するなり、途中いざこざ喧嘩などあるかもしれませんが、とりあえず、主要キャラがある程度精神的にくっついちゃえば、物語は完成すると思うんです。そっから先喧嘩しようが仲良くやろうが、一度安定した基盤を気づいた字彼らを読んでる分には、なんとなく安心して眺めることができます。

 

一方同性愛ものとなると何をしても彼らの関係は落ち付きません。いつ相手が普通の異性愛に戻ってしまうかもわからないという焦りから、自分への依存度を高めようとかなりエグイ繋がりを求めるようになり、なにも達成できないまま関係だけがどこまでも突き進んでいく。不安にあおられて行き過ぎた感情を露わにしてしまう感じとか、普通の漫画にはない泥沼的人間関係、境目がなくなって一体化しているのに安定せずにドロドロ崩れていく気持ち悪さが面白いのだなぁって思うのです。

 

そして私も気持ち悪いので、そんな漫画の中で悩み苦しみどす黒いエゴを爆発させているキャラクターを眺めるのがとても楽しく、面白く読めているのだと思います。