しろうのブログ

フィクションの話

読切は面白い(2014年)④

4つ目です。デスピサロ

 

モーニング「アオダモソウル」松崎真

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アオダモソウル」は毎話一つのポジションに焦点を当てて、そのポジションでの最高のパフォーマンスに全てを賭けるプレイヤーの熱い戦いを描いた、全4話の野球読切です。ピックアップされるポジションは肘を壊して選手として限界を迎えた投手、センターから外野全てを守りきる驚異の守備範囲を持つ守備要員など、微妙にニッチです。

 

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野球の現実的な技術解説などはなく、どちらかというと現実離れしたトンデモ非現実なプレイがドカドカ出てくるのですが、一つのことを極め続けた人間が見る異次元の世界がすさまじい熱量を伴って押し寄せてくる、ひたすらに熱く、面白いです。

 

全4話だけの集中連載でその後の続編情報はなく、いつかシリーズをまとめた単行本が出ないものかと待ち望んでいます。

 


アフタヌーン「ビンカン彼女」児玉潤

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去年旧ブログで「心臓ちゃん」という読切について書いたことがあるのですが、同じ作者さんの読切です。

 

ヒロインは相手の感情を温度によって感知できる特異体質で、巨乳のヒロインをエロい目で見る男がいれば暑さを感じ、怖がり拒絶する人がいれば凍えるような寒さを感じる、やっかいな少女です。温度を通して他人の感情や性欲がダイレクトに読めてしまう彼女は、言葉で感情を伝え合う人間関係に憧れを抱きつつ、それを諦め人と深くかかわらないように生きています。

 

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一方は普段は超真面目にふるまっていながらこっそり官能小説を読んでいたり、ヒロインの裸の姿を頭で想像してたりする、むっつりスケベさんです。品行方正にふるまい周囲から真面目と思われることで自分を保っている主人公にとって、ドピンクな頭の中を無断でのぞかれることは恐怖でしかない。しかし彼は、本当は仲良くなりたいのに周囲を傷つけまいと控えめに生きるヒロインの心に打たれ、彼女の体質を知ったうえで自分の素直な言葉を彼女にぶつけます。

 

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ぶっ飛んだ設定もさることながらセリフ一つ一つの威力がド直球で力強い。
行動と言葉のインパクトが良い感じに相乗して、読み進めるごとにハッとする瞬間がある、とてもいい読切でした。

 


コミックビーム「よしひろ」河井克夫

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かつて気が狂ったホームレスが銃を乱射し動物たちが無残に殺された動物園の、唯一の生き残りツキノワグマのボブ。彼には動物としての本能的な振る舞いが見られず、理性的で打算に満ちた嫌な人間臭さがある。動物としての範疇をはるかに超えた人間的な芸で客を集め、動物園は園長を含めボブに頭が上がらず完全に牛耳られてしまっています。

 

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北海道の動物園から新しく赴任したエリート飼育係尼崎よしひろは、「どうぶつの可愛さってのは無自覚な動きの中にふと垣間見える人間臭さだ。」と主張し、動物園での動物の役割から逸脱しつつあるボブに高圧的な指導を施そうとします。しかしボブはのらりくらりとそれを交わし、よしひろの思惑を煙に巻く。明らかに動物の範疇を超え、人間以上にやっかいな存在となったボブ、よしひろはボブの正体とかつて動物園を襲った惨劇の真相を探り、動物以上の恐怖と対峙することになります。

 

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およそ動物漫画とは思えない猟奇的な恐ろしさ、可愛らしさと狂気が共存するボブという生き物の怪しさが非常に面白いです。

 

加えて飼育係よしひろの動物のかわいさに関する分析も興味深くて、動物に求められる可愛さは過度な器用さではなく、動物が自覚しない挙動のなかに人間性を押し付けられる、人間臭さを錯覚することにあるという、この本編にあまり関係ない一コマがなんでかすごく好きです。

 

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ミラクルジャンプ「竹屋敷姉妹、みやぶられる」水上悟志

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脅威のシンクロ率で他人からは両者の違いが一切見分けられない双子・竹屋敷雪花と冬花。彼女たちはお互いの情報を完全に共有して、クラスを入れ代わり誰にも見破られないように互いを演じ切る双子的いたずら趣味に没頭しています。

 

一般的な双子、タッちゃんとカッちゃんの例とは違って彼女たちは同一視されることを喜び、むしろ見分けられないよう努力しています。「夢は同一人物になること」などと言っており、なかなか将来が不安になる双子姉妹です。

 

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しかしそんな彼女たちをノーヒントであっさり見分けるクラスメイトの登場によって、彼女たちの双子として作り上げたアイデンティティーにひびが入り、わずかにお互いの行動に差分が表れ、自我が分かれ始めます。

 

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他人から、自分と他の人間との違いを認識してもらうことのとてつもない嬉しさを双子姉妹が初めて知る話、とても心地よいです。

 

続きます。