しろうのブログ

フィクションの話

読切は面白い(2014年)⑤

5つ目です。

妊娠モノが多いです。

 

モーニング「おっぱいありがとう」田島列島

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赤ちゃんの頃は男も女もおっぱい好きだったのに、大人になったら女は女のおっぱい吸えないんですよ男は吸えるのに

 

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田島列島先生はこの読切群の後『こどもはわかってあげない』ってストーリー漫画を描いていてそれもすごくいい漫画で好きなんですが、この漫画家さんの何が面白いのか、上手く言語化できません。

 

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でも「おっぱいありがとう」のヒロインのこのセリフは何度読んでも面白く趣深く、物語としての感動よりもキャラクターの魅力が上回っているというか、面白い物語を読んでいるというより、面白い登場人物の面白い人生を覗いているって感覚になります。

 


モーニング「お金のある風景」田島列島

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元彼からの手切れ金30万円を、すっきりするスカッとしたやり方でつかう方法を探すお姉さんが、その辺のぼんくら大学生に絡んで一緒にやきもきする話です。

 

これもまたストーリーの展開どうというよりも、途中に出てきた「8千円のドロップキック」の話の良さ、ぼんくら大学生の適度なボンクラ具合とお姉さんの微妙にしっかりした人生観が素敵で、やはりとても良い読切でした。

 

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ゆるい表情で鋭く良いセリフを吐くから、田島列島先生のキャラは油断ならないです。

 


モーニング「ジョニ男の青春」田島列島

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頼りないプー系の男性との間に子供をさずかり現在妊娠中の29歳玉代さんは、本当にこの男で良いのだろうかとマタニティー&マリッジブルーのさなか、なぜか宝くじに当選してしまい漠然とした不安が膨らんでいくのを感じて言います。

 

そこで彼女は偶然見つけたロボットレンタルサービスに宝くじのお金をつぎ込み、ロボットと結婚するとお相手の男性に吹っかけてみます。

 

この読切も大きく物語に動きがあるわけではないのですが、ジョニ男と呼ばれるジョニー・デップだか何だかよくわからんロボットの絶妙な胡散臭さとか、珠代さんのお相手の男性のお腹の弱さとか、気が抜ける要素がふんだんに散りばめられていてなんだかすごく読みやすい。

 

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冒頭のモノローグ、何とも言えないインパクトがあります。



モーニング「白鳥公園」鳥飼茜

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かつて不倫の関係にあった男女が、4か月ぶりにあって公園で話をします。女性のお腹は大きく膨らんでおり、男性との子供を身ごもっているらしい。彼らがどのようにして別れたのか深く語られてはいませんが、彼らの会話から彼女が男の妻から殺されかけたこと、男性はお金ですべてを解決しようとしていることがわかります。

 

女性の方は男性と一緒なら殺されてもよかった、今でもお腹の子と三人一緒に死んで天国で一緒になるのもやぶさかではないなどと、平和的な解決ではない何かを求めています。それを受けて男性は、女性の若さ・美しさを讃えて「君はまだ死ぬべき人間ではない」などと、保身のきれいごとを並べていきますが、彼女は「一人で美しくたって意味がない」と斬り捨てます。

 

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かつて地味で目立たない人間だった女性を男性が発掘、啓蒙し、彼女は男性のために美を磨いてきたのですが、いざ浮気がばれたとなると手のひらを返したように家庭に帰り別れを強要してきた男性に対して、女性は並々ならぬ恨みを抱いているようです。

 

そして男性がさらにきれいごとを付け足そうとしたときに、女性はある行動をとります。

 

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女性は不倫中からすでに子供を身ごもっていたのですが、男性のために堕ろしてしまっていたのです。そこまでして男性に尽くしてきた女性からの衝撃的な復讐技に、初めて読んだとき息をのみました。

 

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goodアフタヌーン「グッドバイ」トウテムポール

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付き合っている女性との間に子供ができて結婚を迫られているんだけど、家庭・父と子という束縛を受け入れられない主人公・日吉君、ひたすら現実から目を背け、ついには小中学校時代の親友・あっちゃんとの思い出に逃避するようになります。

 

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急速に結婚・家庭に向けて変化していく周囲の反応をよそに、日吉君は過去の時間に退行していきます。あっちゃんは多少アウトロー感があり、ミュージシャンになる夢を抱えている、少年時代の日吉君のヒーローであり、日吉君は今でもあっちゃんの生き方への憧れの気持ちを抱いて生きています。それゆえに、真っ当な社会人として責任を抱えて生きることを嫌がり、子供・結婚のめんどくさいWパンチにいら立ちを募らせ、妊娠中の彼女とも喧嘩別れしてしまいます。

 

ある日小学校の同窓会が開催されることになり、あっちゃんがそこに来ると聞いて日吉君は乙女のように緊張しながら、中学卒業以来久々にあっちゃんと会うことになります。

 

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しかし、そこにいたあっちゃんはかつて日吉君が憧れたあっちゃんとは正反対、今日吉君が最も嫌がっている「よくできた責任ある社会人」として立派に生きているのです。娘が三人いて、タバコをやめて、建設会社で働いていて、過去の自分を若気の至りと恥ずかしがっている。日吉君が憧れた、今も憧れているはずの「あっちゃん」を本人に否定されてしまうのです。

 

あっちゃんと別れた後、日吉君の心境に大きな変化が生まれます。
昔の自分を茶化すようなことを言い、けんか別れした彼女と仲直りをして上手くやっていくための計画を練ってみたり、青春の終わりを悟ります。

 

いつまでも同じ価値観を持っていると信じていた存在が、当たり前のようにあっさり変化していく、青春を失うことの恐ろしさを感じます。

 

次で終わりです。