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しろうのブログ

フィクションの話

小さい世界の秩序とカバの余談

 

閉鎖的な共同体の中で人間が生きていくために、共同体が秩序を持って上手く回っていくために、独自の信仰や思い込みが保たれている感じ、しかもそれが外部の人間によって作為的に作り出された環境だったりしたら、すごく面白いなぁって感じる、そんな話です。

 

ザンビアのカバと黒魔術」のはなし

このカバの話は記事の主題とはあまり関係ないので、ずっと下の漫画の話のところまで読み飛ばしていただいて大丈夫です。

 

 

アニマルプラネットで「ザンビアのカバと黒魔術」って特集をやってるのを見たんですが、これがなかなか興味深い内容でした。

 

アフリカの南部に位置する国、ザンビアザンベジ川流域には多くの人々が住んでおり、川とは切っても切り離せない生活を送っています。学校に行くにもカヌーを使って移動し、川の豊かな水を使ってトウモロコシなどを栽培しています。しかしザンベジ川には多くのカバが生息しており、畑を食い荒らし、時には人間を殺傷する獣害を引き起こしています。

 

ザンベジ地域では近年カバの攻撃性が異常なほどに高まっており、人間を意味なく襲う事件が増えていると言います。縄張りを侵したわけでも、特別彼らを刺激したわけでもない、生物学的にも説明のつかない不可解な現象だそうです。この番組は動物行動学の専門家にして冒険家というデイブ・サルモ二さんが、カバの一連の異常行動の理由を調査する過程でザンビアの土着の黒魔術信仰に出会い、うっかり生物学者としての本分を忘れて感化されてしまうという内容です。

 

デイブさんは、縄張りを侵されたわけでもないカバが、明らかな殺意をもって人々を襲った理由を解明しようと、被害に遭った人々にインタビューを試みます。被害者たちは理由もなく足を食いちぎられたり、取り返しのつかない被害を受けた不条理に、やるせない表情を浮かべます。

 

縄張りに入っていない人間を積極的に襲い食い散らかすという行動は、カバの動物的性質から逸脱したであるとデイブさんは語ります。農業や漁業で食い扶持をつないでいるザンベジ地域では、カバ害は労働力の大きな損失につながり、集落の人々もどこか重苦しい雰囲気に包まれています。しかし、彼らはカバに対する復讐心や敵対心のようなものは抱いているようには見えず、デイブさんはそれを不思議に思います。

 

その後もデイブさんは調査を続けますが、動物行動学的にこれらのカバ害を説明できるような根拠を見つけ出すことができません。

 

完全に行き詰ってインタビューだけを続けているデイブさんの下に、ある日一人の村人やってきて、カバの攻撃性の原因は黒魔術によるものだとこぼします。何者かが黒魔術でカバを操り、人間を襲わせたのだと。

 

現代人のデイブさんは今時黒魔術を信仰している奴なんているかと懐疑的な姿勢を見せますが、他の住人・被害者たちに「カバによる被害は黒魔術によるものと聞いた本当なのか?」と問うと、彼らはみな、無言でそれを肯定するのです。

 

カバの異常な攻撃性は、黒魔術によって、人間によって引き起された人災であるという、これは動物行動学の立場をとるデイブさんには到底許すことのできない見解であり、デイブさんは何を持って彼らが黒魔術を信じるようになったのか、さらに調査を進めます。

 

ザンベジで生じた不条理なカバ害を全て人災と断ずるのであれば、その犯人を突き止め罰を受けさせなくてはならない。カバではなく人間に罪を負わせるのであればそれなりに説明力のある証拠が必要です。デイブさんは黒魔術を行使した奴は誰なのかわかるのかと村人に詰め寄ります。すると彼らは村で一番の呪術師の下にデイブさんを連れていき、犯人を突き止める儀式の様子を見せます。儀式自体は土地神を憑依して犯人を突き止めるシャーマン的なパフォーマンスもので信憑性は低いのですが、呪術師は確かに犯人の居場所を突き止め、さらには犯人が使用したと思われる黒魔術道具まで探し出します。

 

この黒魔術信仰について面白いなと思ったのは、なんとも説明のつかない不条理な事象を非科学的な存在(魔物・妖怪など)という枠で捉えるのではなく、人間の 行為の結果として説明しているところです。黒魔術や呪術といった非科学的な要素を介してはいますが、事象の行動主体は人間であると考えているところがなか なか面白いなぁと。

 

宗教的信仰が、やり場を無くした恨みの心の矛先を、復讐心の攻撃対象を作り出すために構築されている、魔女裁判なんかと同じ構造のそれが現代にもあるんだなぁと感動したのです。

 

デイブさんは黒魔術と呪術の信憑性については触れません。しかし科学の説明力が通じないアフリカの奥地で、不条理な現象への納得のいく説明として黒魔術と呪術がしっかりとタッグを組んで、人々のやるせない感情を汲み取る役割を果たしていることに感動します。カバの異常行動に対する科学的調査のことはすっかり忘れ、民俗学的な好奇心に呑みこまれていくところで番組が終わります。

 

ザンベジ川のカバが人間に過剰な攻撃性を見せるようになったのは、被害者に恨みのある何者かが黒魔術によってカバを操作し、攻撃させたから、かもしれない」とい うのがこの番組の出した答えです。動物行動学の専門家をしても、土着の黒魔術信仰を覆すことができなかった、閉鎖的な空間を支配する信仰を揺るがすことが できなかった、それが面白いなぁと感じたんです。まさか動物学者が原因を解明しないまま黒魔術の可能性を信じる方向に流れるとは思っていませんでした。

 

カバの異常行動を、生物学的に説明することができるまで、彼らの黒魔術信仰を終わらせることはできないの です。というか、呪術師やカバの被害に遭った人間からすれば、すんなりと他人を恨むことで復讐心を晴らせる現在の信仰の方が都合が良いはずで、正直デイブ さんによる調査なんて求めていなかったのかもしれません。こうなると黒魔術VS科学という、別種の信仰の対立のようにも見えますね。

 


 

閉鎖空間の常識が崩される話

さて、こういう根拠のない信仰によって閉鎖的空間の人間を統治し、内部あるいは外部の人間にとって都合のいい歪んだ世界を生み出す感じの、そんな物語が私は大好きです。外部と隔絶された閉鎖空間の中で常識とされていたことが、何らかのきっかけで外部とつながりを持ったことで崩れていくような、そんな物語が


僕と君の間に鈴木央

僕と君の間に 3 (ヤングジャンプコミックス)

 

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周囲を巨大な滝に囲まれた脱出不能の国「ヘブン」に住んでいた主人公と幼馴染が飛行機を作って脱出しようとするんだけど

 

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実はその滝は巨大なドームに映された映像でしかなくて、「ヘブン」は天候から土壌状態まですべてをコンピューター制御している閉鎖国家だったということがわかり、

 

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先に飛行機に乗っていた幼馴染はドームに激突、主人公は幼馴染が明けたドームの穴から外界へと脱出するという、何とも良い設定の漫画です。

 

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そしてこの世界には飛行機のような交通手段はとうの昔に滅亡していて、それぞれの国家がそれぞれの文明レベルの中で、独自の常識の中で繁栄しています。

 

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そこに古代工作技術を持つ主人公と、超未来文明を操る謎のお姉ちゃんが乗り込んでいき、なんだかんだ啓蒙しちゃって文明開化させちゃう、そんなSF物語です。この後には主人公ホークの故郷がドーム状に管理されていた理由、そして管理者たちの存在が明らかになっていきます。

 

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鈴木央らしいショタの主人公がいろんなお姉ちゃんにボコられます。アマゾネスに男娼として捕えられたり、楽しい展開がてんこ盛りです。

 

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「わが谷は未知なりき」手塚治虫(『空気の底』収録)

空気の底 (手塚治虫漫画全集)

アメリカ宇宙ステーションの移民計画に先立って、移民星の環境を模した、絶壁に囲まれた谷でテスト生活している家族(父・息子・娘)の話です。

 

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兄妹は生まれた時からその土地に住んでおり、谷の外側に何があるのかを知りません。そこに谷の底から一人の男が流れ着き、諸事情でしばらくその家に留まることになります。男と娘は次第に恋仲になり、外部の上方が娘に伝わることを恐れた父が男を殺そうとし、逃げる男を追いかけた兄妹は崖の外の世界を見て真実を知ってしまいます。

 

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自分の祖先は罪人だった、夢見た外界など存在しなかった、いろんな絶望が兄妹を同時に襲います。その後、いろいろあって男と父は死に、後には近親相姦的な手塚世界だけが残ります。

 

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『空気の底』はこのほかにも表題作の「ふたりは空気の底」や「聖女懐妊」など閉鎖的な空間で人間が異様な行動をとる話がいっぱい入っていて楽しいです。

 


高畠エナガGODSPEED

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最近ミラクルジャンプで連載が始まった漫画です。

 

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大天使が悪魔から人間を守るために設立した「聖峰」と呼ばれる養護施設、そこでは天使が人間の子供たちに勉強を教え、14歳になって施設を卒業し「楽園」に行くまでの面倒を見ています。外界には悪魔が住んでおり、人間は外に出れない。窓から見える外界への好奇心が収まらない主人公たちは卒業直前に、こっそりと外に抜け出し、そこで天使と悪魔の、世界の本当の姿を目撃します。

 

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自分たちを絶対正義の存在と過信した天使が、自由気ままに生きる悪魔を殲滅する戦争をけしかけ、争い続けている。

 

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長い戦いの中で天使の数はどんどん減っていく中、自分たちで子供を産むことができない天使は人間の肉体を使って死んだ天使を復活させる秘術を開発し、人間を戦争のための資源として利用するようになった。

 

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世界が見事にひっくり返って、読んでてわくわくが止まりませんでした。

 

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 梅田阿比先生の『クジラの子らは砂上に歌う』もそんなストーリーですね。あの漫画の世界の崩し方も最高ですよね。


これらの物語は、小さく閉じていた世界、都合よく回っていた世界に、突然外界からの非常識が流れ込んできて、在りし日の常識や幸せが崩れ落ち色あせていくという展開をとっています。そして真実に直面した主人公たちが絶望に打ち勝ち、自分たちが本当の意味で生きていける世界を目指して戦い続けます。

 

一方アニメの『灰羽連盟』は明らかに外部による閉鎖世界管理の実情が見えているのに、その小さな世界が壊されることなく存続していく、上記の物語とは違った面白さがあります。

 

 

外の世界が見えているのに壊れない『灰羽連盟

灰羽連盟 DVD_SET

 

灰羽連盟』は、繭から生まれた灰色の羽を持つ子供たちが、塀に囲まれた廃墟の中で生活する話です。灰羽達にはお金を使ってはいけない、古いものしか使ってはいけない、外の町の人間と会話してはいけないなどの様々なルールが課されており、質素で外界から遮断された環境を生きています。何故彼らは繭から生まれ羽が生えているのか、なぜ外界との接触を禁じられているのか、何のために生まれ、何を目的としているのか、これらの謎は作中殆ど解明されていません。

 

しかし町の人間との交易・物資調達の際には交渉役として謎の手話師が登場し、灰羽と外界を繋いだり、灰羽達の生活を講演する連盟の存在など、外界の人間による作為的な管理体制が敷かれていることは明白です。しかしこれらの謎が解明されずに、灰羽達にとっての常識として信仰されたまま、信仰の裏にある思惑が隠されたまま話が終わったところがすごく好きなんです。

 

 

何が言いたかったのかよくわかりませんが、私は閉じた世界の中で確立されていた世界観が崩れる話、信仰の裏に外部の人間の思惑が見え隠れする感じの話が大好きだということです。小さな閉鎖世界を都合よく管理するため、秩序が乱れることを防ぐために信仰や、小さな非常識がその世界に設定されている、そんな雰囲気がとても良い、それが主人公によって崩され変わっていくのならばなおよい。

 

ザンベジの黒魔術もいつか科学や別の信仰によって、あるいは主人公的な超人間の常識はずれな行動によって崩されてしまえばいいと思います。